【短編】本日、総支配人に所有されました。

しつこく話をかけてくるので、振り切ろうとして台車を勢い良く横にカーブさせると倒れて乗せていたクロスが落ちた。


ガダンッ。


鈍い音がして倒れた台車を慌てて引き起こす。


散らばったクロスを拾おうとした目線の先には、誰かの足元が見えた。


紺色にグレーの細いストライプの入った細身のスーツには見覚えがある、支配人だ。


「またお前か、篠宮」


低い声の聞き慣れた叱責。


しゃがんでいる私を見下ろす、威圧的な態度。


「私語は慎めと何度言ったら分かるんだ?」


「すみません…」


いつもなら、ただの叱責だと思うけれども・・・このタイミングで来てくれたのだから、きっと助け舟なんだと思う。


私はクロスをササッと拾い上げ、台車ので籠の中に放り投げる。


「申し訳ありませんでした。一人で行って来ます」


・・・そう言い残して、私はその場を去った。


会場を出て従業員専用エレベーターに乗り、ランドリーまでの道のりを急ぐ。


「はぁっ…」


ランドリーにたどり着き、クリーニング専用ボックスにクロスを移し替えながら溜め息をついた。


あの人、何故あんなにもしつこく私に話をかけてくるのだろうか?


たわいもない世間話ならともかく、私自身の事を知りたがっているようで嫌だ。


「アイツには逆効果だったようだな…」


「…うわぁっ」


「人を化け物呼ばわりするように驚くな」


「し、支配人っ!?」


考え事をしながら作業をしていたら、いつの間にか支配人が後ろ側に近付いていた。


「アイツが自分と釣り合わないとひるむと思って、お前を綺麗にしてやったのに…図々しくも余計に声をかけてきたとはな…」


「………?それって、もしかして…?」


「もしかしなくても、ヤキモチだな」


腕を引かれ、支配人の胸にすっぽりと収められる私の頭。