【短編】本日、総支配人に所有されました。

以前働いていたリゾートホテルの仲の良い人とは、メールなどでやり取りしているし、お互いに会えずに寂しい思いをしているのも分かっている。


この人が私の事を良く知りもしないのに、前の職場で話題にしている事が不愉快に思える。


早くオープン時間になって欲しい。


「今日、終わったら、どこかに行きませんか?」


「…ごめんなさい、明日も仕事なので」


「お休みいつですか?」


「…………」


明らかにナンパ行為。


支配人に見られたら今度こそ、確実に厳重注意処分。


黙り込んでもめげずに誘って来て、困り果てていると配膳会の方が注意をしてくれた。


助かったのも束の間、オープン時間になり、慌しく動かざるを得ない。


慌しくて動いても先日の披露宴の比ではなく、幾分、足取りは軽やかだ。


カラードレスに身を包んだ新婦がにこやかに笑う中、例の大学生に会わないように歩き、星野さんをサポートして料理を追加したり、ドリンクをお客様に提供する。


話をかけられる隙を作らず、仕事に没頭する。


パーティー終了後に顔を出した支配人の近くで片付け作業をし、やり過ごせたと思った時、大学生に捕まった。


「手伝うよ」


使い終わり、テーブルから剥がされたクロスをいくつかにまとめて、ランドリーに運ぶ為に台車に乗せて出発しようとした時、大学生に捕まってしまった。


「中里さんと一緒に行くので大丈夫です」


「こっちの女の子は中里さんって言うんだね。じゃあ、三人で行こうよ?」


「他にも片付けが残っていて効率が悪いので二人で行きますから大丈夫です」