【短編】本日、総支配人に所有されました。

ブッフェスタイルの従業員食堂で食べる分だけを皿に盛り付け、空いている座席に座る。


今の時間帯は空いていて、食事の間は気が休まりそうだ。


「いただきます」と言ってから、真っ先に口に運んだのは大根おろしを乗せた厚焼き玉子。


程よい甘さと大根おろしの辛さが合わさり、大好きな一品。


従業員食堂の調理人は、元々はレストランの厨房で働いていた方々。


定年後も現役で厨房にいる事も可能だが、体力に自信がない方々がパートになり、従業員の食事を作ってくれているから美味しさは格別。


「どんなに嫌な事があっても、従食の御飯を食べると元気になれます。日替わりなのも嬉しいです」


「そうだな。お前の面倒を見るようになってからは、ゆっくり食べれて有難い」


「うわぁっ!それって嫌味ですか?」


「…さぁ、どうだかなぁ?」


段々と支配人とも打ち解けてきたので、冗談混じりの多少の反発もする様になった。


意地悪を言ってニヤニヤと笑う支配人は、得意の流し目で私を見る。


この人、自分が放つ特別なオーラに自覚しているのだろうか?


隣で食べている中里さんをチラリと見たら、顔が赤い。


ほらね、早速、支配人の毒牙(色気)にやられたらしい。


「何だ?中里は少食なのか?箸が全然進んでないようだが、取った分は残さず食べろよ」


指摘された中里さんは支配人を直視出来ない上に、動揺しているのか箸を落としてしまう。


仕事中は冷酷鬼軍曹だとしても、仕事を離れた休憩中などに見せる顔は、とても麗しく色気を放つのだ。


この人の裏の顔を知ってる人が、この職場では私達の他にも居るのだろうか?