朝の空気は驚くほど澄んでいて、微かに新緑の香りがした気がした。


すっかり季節は春の装いへと代わり、それを表すようにカレンダーに記された日付は、3月のものが表示されている。


そういえばシゲちゃんは、新しい彼女とラブラブで、元気に生きてるのだと、友達っぽいのが言っていたっけ。


まぁ、名前を出されてもすぐに思い出せなかったあたしには、全然関係のない話だけど。


一昨日からアラタの個展が始まったらしいけど、別にあたしの心持ちに変化なんてないし、まぁ、頑張ったで賞って感じじゃなかろうか。


一応、ネイルは春ゴージャスに仕上げ、おろしたての服と緩いウェーブを巻いてみた。


さすがあたし、超可愛い。








「遅いよ、超待ったし。」


「出たよ、開口一番のマイさん節!」


ゲラゲラと笑われながら、あたしはワゴン車の後部座席へと乗り込んだ。


すでにメンバーは揃っていて、いつもながらにうるさい車内は、まるで遠足に行く前のバスの中のようだ。



「いやぁ、楽しみっすねぇ!
俺、この前アラタさんからメールで個展のこと教えてもらって以来、ワクワクしっ放しっすよ!」


「アラタさんの絵は、ぶっ飛び過ぎてて脳内パンクスっす!」


チャマくんが言い、そして付け加えるように言ったサブは、座席から後ろに身を乗り出すようにしてあたしの顔を覗き込んで来た。


何でもパンクと表現するのはサブの悪い癖で、正直パンクなのはアンタだけだよ、って思うんだけど。



「チャマくん、アイツからメールってマジ?」


「……え?」


「あたし、アラタのアドレスって知らないんだけど。」


「マジっすか?!
付き合ってんのに知らないとか、普通じゃないっすよ!」


「いや、付き合ってないし。」


そう、別にあたし達は付き合うとかそんな話に発展しなかったら、あたしの中では付き合ってないつもりなんだけど。


てか、普通じゃないって言葉は、あたしではなくアンタ達にそのまま返してやりたいと、強く思う。