送ると言ってあたしを追い掛けてきたシゲちゃんに適当な言葉を並べて追い返してからすぐのこと、突然に携帯が着信のメロディーを響かせた。


誰からだろうとそれを持ち上げ、ディスプレイを確認してみれば、そこに表示されていたのは登録されていない携帯番号。


一瞬、アラタの顔が脳裏をよぎったけど、でも、すぐにそんな思考は消えてなくなってしまう。


だって番号を教えただけで登録していない男なんて星の数ほど居るし、そんなものにあたしは、いちいち通話ボタンを押して確認することはないのだから。


でも、今回だけは別だとあたしは、それに親指を乗せた。



『俺。』


「…どこの俺様?」


『格好良い俺様だ。』


「名を名乗れ。」


『アラタ。』


だろうと思ったけど。


思わず堪えることもなく笑ってしまえば、“元気そうじゃん”と彼は言う。



『そろそろ俺が恋しくなる頃だと思って電話してやったんだ。』


「…アンタ、何様だよ?」


『だから、俺様。』


いや、そんなことを聞いているんじゃないのだけれど。


でも、まるで図星を突かれたような気がして、何も言えずにあたしは、不貞腐れるように煙草を取り出した。


夕刻の西日の色に染まる街に向かって白灰色を吐き出せば、“うち来いよ”なんて彼は、そんな台詞。



「じゃあ、迎えに来て。」


『いや、ちょっと行けそうにないからお前が来い。』


まぁ、幸いなことにシゲちゃんの家はアラタのマンションの近くではあるけど、でも、何でわざわざあたしが行かなければならないと言うのか。


とにかく俺様なアラタは偉そうで、無意識のうちに腹が立ってしまうのだけれど。