お互いにドライなのだろうあたし達は、会話の最中にイチャつくわけでもなく、そしてセックスの最中以外は、アンタとかお前とかで呼び合うような感じだった。


アルコールの量だけ性欲が増すのはあたしの悪い癖なのだろう、“困ったヤツだ”と呆れながらもアラタは、それからもう一度、あたしを抱いた。


それがまるで鳳凰に抱かれているように感じたからか、それとも単に、アラタとの相性が良すぎるのか、ひどく彼を求めている自分が居たわけだけど。


明け方になる頃には飲み過ぎとイキすぎで限界が近くて、何故かアタラはそんなあたしに優しくしてくれているように見えたのは、ただの勘違いだったのだろうか。


色んな意味でホントにヤバい明け方に、あたし達は吸い込まれるように眠りに落ちたのだ。


アラタの腕の中は思いのほか心地が良くて、目を覚ましたのは夕方だったことにはさすがに驚いてしまったのだけれど。



「送るよ。」


そんな一言に、また驚いたのは言うまでもないだろう。


このまま監禁されるのかと本気で思っていたし、別にそれならそれで構わないかな、なんてことさえ思っていたのだから。


二日酔いのように頭痛を訴えるあたしを苦笑いのままに見つめ、ファミレスで二人、空腹を満たした。


やっぱりあたしはアラタが頼んだものをつつくだけだったんだけど、でも、別にそれで良いと言った様子の彼は、今度も何も言わなかった。


そこを出たのは陽が傾きかけた頃で、そのまま真っ直ぐ家まで送ってもらったのだけれど。



「おい、携帯。」


教えろ、と言うことなのだろう、こめかみに痛みを覚えたままに言われたそれを差し出せば、彼は自分の分にだけ番号を入力させ、そしてあたしに返してきた。


そんな感じであたしは、最後まで彼の本名も、年も仕事も、もちろん携帯の番号すらも知ることはなく、車から降りたのだ。


ほぼ一日を通して知ったアラタのことと言えば、車と家と、そして背中に鳳凰を飼っていることくらいじゃなかろうか。


でも、家に帰ってリビングに置かれていた新聞が目についた時には、当たり前だけどあたしの死亡記事なんて載ってなくて、思わず苦笑いを浮かべてしまった。