ちなみに、音楽教室では席が決まっていない。どこに座ろうが自由だ。
それをわかっていて彼女はそう言っている、と思う。

教室でも隣の席なのに、どこに座ろうか選べる音楽室でも隣り合うことになる。

……あとで野崎に茶化される自分が目に浮かぶ。

それにしてもなんなんだ、これは聞いてみないと……。
話そうと突然立ち止まった俺を、壺山は不思議そうに見つめている。

「なぁ壺山、なんで俺を……」

誘ったんだ? と言いかけて、後ろからクラスメイト達が通りかかったから、口をつぐんだ。
彼らは一瞬こちらを見て、それから普通に音楽教室に入って行った。

「あ、チャイム鳴りそう。
早く行こう、安城」

音楽室まで数メートル。
壺山は俺の手を取って音楽室へと向かう。