懐から名刺を出して、そっと彼女に滑らす。


「石垣トオル。妙なことにつき合わせて悪い」


ゴールドのネイルの指先で名刺を拾い上げ、バッグの中に放り込む。


「砂夜、よ。お役に立てたみたいでよかったわ」


真っ赤な唇が動いて、初めて言葉を交わした。


落ち着いた声は想像より少し高くて、想像より彼女に似合っていた。


「お礼におごるよ。……何がいい?」


彼女は迷うことなく答えた。


「スプモーニを」