「そうかねぇ…」
「そうですぅ〜」
ばくばくと大きく波打つ心臓の音を誤魔化すように明るく返す。
悩み事がない、のは別に嘘ではない。
…ただ本当でもない。
静まり返った部屋でまた私のホッチキスの音と先生のパソコンの音だけが響いた。
──────────
「……はい、これで終わり!」
最後の一部をホッチキスで止めて私は両手を高く上げる。
時計はもうすぐ6時を刺すところだった。
「ありがとな」
そう言って頬になにか冷たいものが当てられ、思わず肩を震わせた。
「いちごみるく…」
「やるよ。手伝ってくれた礼な」
そう言って私の頭を乱暴に撫でた。
頭を撫でられたのなんていつぶりだろう。
何故だか涙がでそうになった。
「…逢崎?」
うつむく私を変に思ったのか顔を覗き込んでくる。
私はパッと顔を上げて明るい表情を作った。
「んーん!ありがと」
じゃあ帰るね、と鞄を持ってドアに手をかける。
「…逢崎」
さっきとは違う低く少し切ない声で呼ばれる。
「本当になんかあったら言えよ?
溜め込むのはよくないぞ」
真剣な顔をする先生に私は笑って見せた。
「本当にないってば!!
でもありがと!」
笑顔を貼り付けたまま準備室を出る。
