「じゃ、とりあえずこれホッチキスでがしゃんがしゃんしといて」
そう言って渡されたのは数種類のプリントの束。
「現文の先生のくせに語彙力ないんだね」
「俺が語彙力ないんじゃなくてお前の頭のレベルに合わせて話してるだけです〜」
ホッチキスを手にとりながらからかうように言うとおちゃらけた返事が返ってきた。
充満するコーヒーの匂い。
響くホッチキスの音と三井先生がパソコンを叩く音。
「そういえばさぁ」
作業を始めて少し経った頃に先生が口を開いた。
手は止めずに視線だけ先生に向ける。
「お前、なんか悩み事とかあったりしない?」
予想外の言葉に思わず手を止めてしまった。
「…その反応はあるんだ?」
「…ないよ、別に」
胸の内の焦りを悟られないよう視線をプリントに戻して手を動かす。
「どうしたの、急に」
そう聞くと三井先生は後ろに背を反らす。
ギギ、と音をあげる椅子。
「普段から思ってたんだけどなーんか今日のお前見てたら確信に変わったってゆうかさぁ」
「…なにそれ、ただの勘違いだよ」
