その時



ドンガシャアァァァンッッッッ


俺のすぐ目の前を暴走した車が通りすぎてそのまま壁に突っ込んだ


「…ッッッッ」


俺は現状が理解できずにその場に立ち尽くした


(今、ゆあの声が無ければ、俺は轢き殺されていた…)


まるで一瞬、時が止まったようで俺の身体は動かなかった


だが、後ろから聞こえる泣き声で時が再び刻まれ始めた


ぎこちなくしか動かない身体で振り向く


「……ゆあ…」


情けないほど小さい声しか出なかった


「うわぁぁぁぁぁんっっっ」


さっきまでの笑顔が嘘だったかのように大粒の涙を顔中に降らせている


「……ゆあ…「結愛ちゃんどうしたの?

きゃっっっっ大変っっっ!警察呼ばなきゃっっっ!」


俺が近づくよりも先に保育士が結愛の元に駆け寄り、事故を見て慌てふためいている


「…ゆあっ!「龍太様っっっ!!」


俺の声は黒崎組組員の声にかき消された


組員はかなり慌てた様子で俺に駆け寄ってきた

「ご無事ですか龍太様っ

すぐにここを離れますよ」


俺は逃げるようにしてその場を離れる組員に担がれた


「……やだ…

ゆあっっっ!ゆあが泣いてるっ!!


降ろせっ!ゆあがっっっ!」


ゆあにお礼の1つも言えずに、涙を拭いてやることもできずに立ち去るなんて…


「…ゆあっっっ」


俺の声は組員のスーツの生地に吸い込まれていった