数分後、あえなくドレスを着せられた。

『え!待って!めっちゃサイズいい感じじゃん!それにハルちゃん結構似合うじゃん!!』

目を輝かせてはしゃぐ直美ちゃんとは対照的に私の目は死んでいた。

『サイズ合っててよかったね、さっ、脱ご…』

『待ってハルちゃん!!』

は…?

『ちょっとさ、眼鏡外してみてよ!』

『え?なんで?』

『いいから!』

『はい…これでいいの…?』

視界が一気に霞む。目の前にぼんやりしたシルエットだが一人の女性が手を叩いて喜んでいるのが見える。

いや、何を喜んでるの…
恥ずかしいじゃん、早く脱ぎたいんだけど…

『ハルちゃん、一旦眼鏡をお預かりしまーす!!』

そう言って眼鏡をパッと奪われる。

嫌な予感がした。

『もう20分ほど時間ちょうだい!!』

そういって今度は机とセットになっている椅子に私を座らせた。

『え…ちょっと?何するの?』

『髪セットだけど』

そう言うとワックスを取り出して私の髪に馴染ませる。

『そんなの聞いてませんっ!!眼鏡返して!!』

『写真スポット…』

それは卑怯だろ…

『ううっ…』

そういえばだけど家庭科の先生やってるのになんで人のためにドレスとかデザインしてるんだろ、別にお金になるわけでもなさそうだし…

『ねぇ、直美ちゃん。』

『ん?なに?』

『なんでドレスデザインとかしてるの?家庭科教師っていう職がありながらさ。』

『あー、まぁ、この歳になっても叶えたい夢はあってね!』

『叶えたい…夢?』

『ハルちゃん、ここだけの話だよ。私ね、ほんとはドレスデザイナーになりたかったんだ。でも収入が安定してないって理由でハルちゃんくらいの歳だった時の私はその夢を諦めちゃって、だからこの前友達にドレスデザインを頼まれたきっかけを利用して未練を果たそうとしてるだけ』

『それで、家庭科の先生に…なったのか…』

『そうそう!裁縫は好きだったからさ、それを活かせてかつ収入が安定してるし。…っと、できた!うん!かわいい!!』

『ん…?』

手鏡を差し出され、目を細めて、普段は見ない自分を見る。よく見えないがおそらくブサイクだろう。

すると急に直美ちゃんの携帯が鳴った。

〜♪

『あ!ドレスを頼んできた友達からだ!!ちょっとそこで待ってて!!』

『え…ちょっ!!』

足早に家庭準備室から出る直美ちゃん。

とりあえず、眼鏡をかけたい。これじゃ何も見えない。

辺りを見回し眼鏡を探す。が、どこにも見つからない。

『おかしいなぁ〜…。』