「私なんかが彼女だと、エイジがかわいそうだもん。」


そうだ、ずっとそう思ってきたんだな、私じゃダメだって・・・
あんなにいい子なんだもん、もっとちゃんと素敵な彼女が出来るはずだって・・・

だけど、それが本当になってしまうと、どうしてもやるせない気持ちでいっぱいになる。

泣き出しそうな気持ちをぐっと我慢しようと思ったら、いきなりカオリちゃんが真正面に座って、私の肩を両手で支え、まっすぐ私の目をみつめた。


「“私なんか“なんて絶対いっちゃダメ!
言ったらどんどん惨めになるだけだって…
私だって!って前向きにならなきゃダメよ、

西門総二郎も言ってた!」


え??

それって、漫画のキャラクター・・・って思ったら、思いっきり笑ってしまった。


「それって花男の?」


「そうそう、F4の。」


カオリちゃんはそう言うと、にっこり笑ったと思ったら、今度はちょっと微妙な顔をする。


「ああでも、もう遅いかぁ… 私モモちゃんも好きだしなぁ… なんかうまくいかないねぇ~」


そういってうなだれてしまうから、あの子と仲がいいんだなって一瞬で思った。



「大丈夫、カオリちゃんにハッキリ言ってもらえたらなんか元気出た。」


なんだろうな、こんな私でも、真剣に心配してくれる人が結構いるんだなって思ったら、本当に救われた気がしたんだ。




「鉄さん!黒霧島のロック下さい!」

いつものをそう頼むと、「じゃあ私も!」ってカオリちゃんも同じものを頼んでいた。


2人でカンパイすると、何だかやたら楽しくなって、何もかもがどうでもよくなってくる。



「ねえ、カオリちゃんは、そのモモちゃんと仲がいいの?」

気になってやっぱり聞いてしまったら、レン君の妹だって教えてくれた。
ああそれじゃあ、レン君が微妙な顔するわけだな・・・

あれ?でもその子も、彼氏いるんじゃなかったっけ?


「レン君の妹さんって、彼氏いなかった?」

そういえばエイジから聞いたことある。


「ちょっと色々あって、別れさせられちゃったみたいなんだよね・・・
エイジ君と付き合いだしたのは、その後からだよ。」

それって、嫌いで別れたってことじゃないんだよね・・・
エイジはそういうのわかってて付き合ってるのかな?
何だかあっちも複雑そうだなとぼんやり思う。


「なんか有名なアイドルだって聞いたけど。」


「ああ知ってるの?この子だよ、この右の子。」


そういってカオリちゃんは、大事に手帳に挟んであるアイドル二人組みの生写真を見せてくれた。


「凄い、綺麗な顔のこだねえ・・・」

テレビでチラッと見た事があった気がしたけれど、改めて見るとイケメン過ぎてまぶしいぐらいだ。


「でしょう?美人と書いてビトって名前なんだよ。名前負けしてないよね。」

私はこっちの子が好きなんだけどって、カオリちゃんはテレながら左の男の子を差した。



「なに、カオリちゃんってアイドルオタク?」

冗談交じりでそう聞いたら、恥ずかしそうにそうなんですなんて言っている。

なんか面白いな。


「レン君とはどこで知り合ったの?」

「えっとね、3年前のサマソニだな・・・」


カオリちゃんは今度は、やたら楽しそうに思い出話を語った。


「モンパチのライヴの時さ、モッシュで揉まれて倒れそうになってる少年がいて、助けてあげたのがきっかけだ。」


「え?助けてもらったんじゃなくて、レン君を助けてあげたの?」

結構小さいのにパワフルな子なんだなって思う。

私だってモッシュにもまれると抜け出せないときも多いのに。



「そしたらさ、なんかすっごい好みの子だったんで、そのまま仲良くなっちゃったんだよね~
ずっと友達だったけど、最近付き合うようになったんだ。」


あれ?だけど、この好きだって言ってるアイドルの子と、レン君って、全然キャラが違うなあって不思議に思った。


「カオリちゃんは、こういう子が好きなんじゃないの?」

左の男の子を指差してそうきくと、この子は特別なんだって言う。


「基本は、小さくて可愛い感じの男の子が好きなんだけどさ、アキラはなんか違うんだよね・・・
Jrの頃からずっと見てるけど、ビトと同じぐらい頑張り屋さんでさ、すっごく気遣いの出来る大人の子なの。」


それってまるで、エイジのことみたいだなって、ぼんやりと思い出す。


「でもさ、彼氏とアイドルは別だからね、別次元。
やっぱり私は、レンがいいもん。」


そんな風に素直にいえる彼女が、やたらうらやましく思えた。