鉄さんの話を聞いていて思い出した、エイジが避妊に拘るわけが。

早く子供を作ってしまって後悔していた母親の事をきっと知っているんだ…



そして、鉄さんの心も、まっすぐに満さんにしか向いていないってことが、痛いくらいにわかってしまった…


「なんだか羨ましいな、エイジは…」


私はそんなに愛された記憶がない。

本当の父親は子供の頃に親が離婚して覚えていないし、二番目の父は私に無関心だった。

母には普通に愛されていた気がするけれども、義兄のことがあってからなんだか少し変わった気がする。

自分が再婚したせいで、私が辛い思いをしているとでも思っていたのかもしれない。



親子の関係なんて、人それぞれだよな…


私は殴られたり放置されたりしなかっただけ、大分ましな方なんだと思う。



「リンダちゃんも、何かあったの?家族と。」


そんな風に鉄さんが聞いてくれるから、つい本当の事を話してしまった。


「そうだったんだ…」


良いとも悪いとも言わず、鉄さんはただ私の話を聞いてくれていた。
それがすごく嬉しくて、思わず涙が流れると、大丈夫かと優しく頭を撫でてくれる。

それが、本当の父親にされているようで、とても嬉しかった。





それから、私はライヴだけではなくて、鉄さんの働く居酒屋にも、次第に通うようになっていった。


高校の頃から何となくお酒は飲んでいたけれども、鉄さんの店に行くと絶対に酒は飲ませてもらえない。
まだ未成年だからと。

それは、もちろんお店を経営していく上での法的なルールではあるけれど、適当に誤魔化すことは決してしない人だからなんだ。


もちろん、私が20歳になってからは、たくさん飲ませてくれるようになったけれど。






エイジと鉄さん、

二人とも私にとって、とても大事な人になっていったんだ…