「凛?」

歩いていると後ろから声をかけられた。

この声は、この声の主は、昔から私の大好きな大好きなあの人の声。
私は笑顔でくるりと振り向く。

「湊兄ちゃん」

「よっ。はやいな」

彼の名前は吉崎湊 (よしざき みなと)
4月から大学生。
私が大好きで大好きで仕方なのない人。
そう、私の王子様。

わしゃわしゃ、と頭を撫でられる。毎回会ったときの恒例行事みたいなものだ。

「わっ、やめてよ。髪型崩れるじゃない」

「なんだよー。いいだろ?会ったときは毎回してんだから。凛は俺の可愛い"妹"なんだから」

ズキっ
" 妹"というフレーズに、心が痛んだ。

「い、妹扱いしないで!今日から立派な高校生なんだから!大人の仲間入りなんだから!」

「そう怒るなよな。可愛い顔が台無しだぞ。スマイル、スマイル」

「うぅ、」

くそ。反則すぎる。湊兄ちゃんの笑顔はいつもずるい。ズキズキした私の心もすぐにポカポカと暖かくなる。惚れた弱みってやつね。

「湊兄ちゃんも大学生か〜」

「凛だって高校生だろ〜。あの泣き虫凛ちゃんもついに高校生か」

にしし、からかうように湊兄ちゃんが笑う。

「な、泣き虫って言うなー!もう泣き虫じゃないもん」

くくく、と笑う湊兄ちゃん。ぷくっとホッペを膨らませ、恥ずかしくてそれを紛らわそうと湊兄ちゃんをポカポカ叩いた。

「ほんっと、凛は昔から変わらないな」

先程とは違い、ふわっとした笑顔で優しく頭をポンポンと撫でられる。

「……」

あぁ、どうしてこの人はこんなにもステキなんだろう。
どうして私の心をかき乱すんだろう。
胸の高鳴りがとまらない。


「じゃあ、俺こっちの方面だから。高校生、頑張れよ」

「あ、う、うん。湊兄ちゃんも大学頑張ってね」


私たちは駅で別れた。


−…ガタン ゴトン ガタン ゴトン

電車に乗り、ふと、私は湊兄ちゃんとの出会いを思い出していた。