急いで脳外に戻ると、患者の家族面談を終えただろう木南先生が、面談室の前で患者家族に頭を下げているのが見えた。

 患者家族を見送り、その場を離れようとした木南先生に早足で近づき、

 「木南先生、1分だけすみません」

 木南先生の腕を掴むと、そのまま面談室に押し込んだ。

 「何何、どうした? 研修医。何かしでかしたの?」

 オレの行動に驚きつつも、『今回の研修医も問題児だったかぁ』と半笑いでふざける木南先生。

 「柴田です!! 患者さんには何もしていません。何かしようにも力不足で何も出来ていません。しでかしたのは、木南先生にです。オレ、何も知らなくて木南先生に酷い事を言いました。『木南先生に母親の気持ちは分からない』とか。本当に申し訳ありませんでした」

 勢いよく頭を振り落すと、

 「あぁ、聞いたんだ。3年も前の話をよくも飽きずに語り継ぐよね、ここの病院の人たち。伝説じゃないんだから」

 頭の上から、面白いなどとは1ミリも思っていないだろう、木南先生の乾いた笑い声がした。