「木南先生の気持ちは分かる。でも、悪いのは誘拐犯であって早瀬先生じゃない。なのに、木南先生は早瀬先生を、家からも医局からも追い出した」

 桃井さんが、フォークでパスタの上に乗っていたベーコンを突き刺しながら、木南先生に怒りを向けた。

 でも、オレの怒りは木南先生ではなく、自分に刺さる。

 「……オレ、何てことを……」

 藤岡さんのオペの前にした木南先生との会話が頭を過った。

 『結婚した事のない木南先生には、母親の気持ちは分からない』

 何も知らなかったとはいえ、何であんな事を言ってしまったのだろう。木南先生に、何て無神経な事を…。

 「桃井さん、教えてくれてありがとうございました。オレ、医局に戻ります」

 言葉と同時に立ち上がり、食堂を出た。

 一刻も早く、木南先生に謝罪したい。