「…あの日は、木南先生は出勤で早瀬先生は休日だったから、早瀬先生は息子さんのお世話を頼まれていたそうです。早瀬先生の元カノの命日の日でした。
早瀬先生は、息子さんを連れて元カノさんのお墓参りに行ったんです。
月命日ではなく命日だったから、いつも以上に想いが溢れたんでしょうね。いつもより長く目を閉じながらお墓に手を合わせていたそうです。その間に、息子さんは拐われてしまった」
「……」
桃井さんの話に、最早目を見開く事しか出来ない。
「息子さんを誘拐したのは、早瀬先生の息子さんと同じくらいの歳の子どもを病気でなくした女性だったそうです。自分の子どものお墓参りに来たとき、偶然早瀬先生の息子さんを目にして衝動的に拐ってしまったと。墓地から離れたところで、早瀬先生がいない事に不安になった息子さんが泣きだし、動転した女は突発的に早瀬先生の息子さんの口を押えつけて窒息させてしまった」
「……」
未だ声を出せないオレの左手が、テーブルの下で震えた。



