カウンター越しにナースステーションの中を見回すが、目当ての人が見つからない。

 「あの、桃井さんは?」

 近くにいた看護師さんに桃井さんの居場所を尋ねる。

 「さっき休憩に入りましたよ。社食にいるんじゃないかな。緊急なら呼び出しましょうか?」

 ポケットから携帯を取り出そうとした看護師さんに、

 「大丈夫です!! 私用です!!」

 『違う違う』と両手を振りながら携帯をしまう様にジェスチャー。

 「私用?」
 
 看護師さんが呆れた笑顔でオレの顔を覗いた。おそらく、オレが桃井さんにデートのお誘いにでも行くと思っているのだろう。

 オレが桃井さんに気があるのは間違いないが、研修医の分際で仕事中に色恋沙汰を持ち出すほどアホではない。

 「私用ですけど、そっちの私用じゃないです。業務上の私用!!」

 と、言いつつも、訳の分からない日本語でアホみたいな言い訳をしながら、これ以上ここにいると変な冷やかしに遭い兼ねないと判断し、即座にナースステーションを離れ、桃井さんがいるだろう食堂へ向かった。