関屋くんを見送ると、

 「早瀬先生、ありがとうございました」

 今度は早瀬先生に頭を下げる。

 「私は何もしてないよ」

 『何のお礼?』と言いながら、早瀬先生が『下げなくて良い頭は上げておいて』とオレの上半身を起こさせた。

 「関屋くんを連れて来てくれたじゃないですか。それに、科が違うのにいつも藤岡さんを診に来てくださるし。それに比べて木南先生は…」

 関屋くんの優しさや早瀬先生の情味の在り方に触れると、その点ではドライな木南先生のやり方を『何だかなぁ』と眉間に皺を寄せてしまう。オレは、患者さんの気持ちに寄り添いながら治療をする早瀬先生の様な医師が、医者としての正しい姿だと思うから。オレの父親がそうだったから。顔見知りの患者が多いクリニックで、患者ひとりひとりに親身になっている父親見て育ったから。