ゆるいパーマを後ろで1つ結びした、落ち着いた感じの女性がオレの前に立ち、

 「木南です。春日先生の代打でキミのオーベンをする事になりました。…キミ、期待してるからね」

 挨拶をしながらオレの二の腕をポンポンと叩いた。

 「あ、はい。頑張ります。…あの、どうしてオーベンが変更になったんですか?」

 オレの質問に、周りの医師たちがクスクス笑い出した。

 「キミの前の研修医がすごかったんだよ。オペで泣く喚く吐くの大騒ぎで。温厚で有名な春日先生が『オーベン暫くやりたくない』って匙を投げたくらいに懲りたっていう。だから、キミには期待してるから!!」

 思い出しながらクツクツ笑う木南先生が、もう一度オレの二の腕を叩いた。

 「それ、『期待している』んじゃなくて、『お前は迷惑かけるなよ』って言いたいんですよね?」

 『前の変な研修医と一緒にしてくれるなよ』と不満に思いながら唇を尖らせると、

 「迷惑をかけない事も、期待しているって事だよ。ホント、超期待してる。って事で、一通りみんなに挨拶したらナースステーションに行くよ。看護師さんも次の研修医の心配してたから」

 木南先生は『超期待してる』という言葉でオレに『絶対におかしな事をするんじゃねぇぞ』という圧力をかけると、医師たちのデスクの方へオレを案内した。