もう何度目かの溜息かも分からない息を吐いた時、

 「…息臭い。顔にかかってる」

 木南先生が目を覚まし、オレに白い目を向けていた。

 「木南先生!! なんで何も言ってくれなかったんですか!?」

 『そんなに臭い?』と口の前で両手を丸めて自分の息の確認をしながら、木南先生に白い目を向け返す。

 「研修医にいちいち言う必要ないでしょ。あー、良く寝た。家かーえろ」

 木南先生は『うーん』と天井に向かって伸びをすると、掛かっていた布団を捲ってベッドから出ようとした。

 「何言ってるんですか!! 木南先生は今日から入院ですよ!!」

 木南先生をベッドに押し戻し、無理矢理布団を被せる。

 「はぁ?! 入院なんかしませんが」

 「もう、何言っているんですか!! 自分の病気の事、分かっているんでしょう?!」

 「知ってるよ。食道癌。ステージⅡ。」

 木南先生は『食道癌』を『風邪ひきました』くらいのテンションで話す。