木南先生のオペに感動さえしていたオレに、
「じゃあ、交代。研修医、やってみ?」
木南先生が無理難題を突き付ける。
「…はい?!」
「ちゃんと見てたって言ったよね? 剥離子は自分で選んでいいよ。必ずしもスパチュラーじゃなくても大丈夫」
驚き固まるオレを余所に、木南先生はオペの手を止め、自分が立っていた場所を明け渡した。
「木南先生、いくら何でもそれは無理です。柴田くんは研修医です。研修医にそこまでさせるのは危険です」
木南先生の指示に早瀬先生も流石に焦っていた。
「研修医だから、危険な事はしなくていいの。野村さんは実験台じゃない。だから出来るところまででいい。
オペは見ているだけじゃ上手くならない。場数を踏むしかない。回数を重ねると、オペに勘が備わる。『勘で手術します』なんて論文にも書けないし、そんな不安にさせるような事を患者さんにも言えないけど、繰り返しオペして得た勘って、他人には説明出来ないけれど、自分にとっては確固たる根拠になるじゃない。早瀬先生には分かるでしょう? 今は私の言っている事が理解出来なくても、研修医にもそのうち分かる日がくる」
『最初から出来ないと決めつけるな。私が傍でちゃんと見ているから』と木南先生が再度オレを呼んだ。



