まだ何もしていないというのに、額から汗が吹き出し、背中には冷や汗が流れた。
野村さんの頭皮にメスを入れる事に躊躇しているオレに、
「私ね、アンタを同期から出し抜かせたいのよ。医局ってさ、必ずしも優秀な人間が上に行けるシステムにはなっていないじゃない。上司に好かれた人間が出世したりするじゃない。
有名作家である野村さんのオペが上手く行ったなら、この病院の評判は上がる。そのオペに携わったアンタの評価も上がる。
私にとってこのオペは、最後までアンタのオーベンを勤めあげなかったお詫びの意味も多少ある。もちろん、野村さんの命が第一だから、研修医がどうにもこうにも出来なさそうだったら、メスを取り上げて全部自分でやるけどね。だから、出来るところまでやってごらん」
木南先生が『肩に力が入り過ぎ』と自分の肩を上げ下げしながら、オレにリラックスする様促した。



