「それにしても遅すぎじゃないですか? 有休消化し始めて結構日にち経ってますよね? 捗ってなさすぎでしょ。本当にちゃんとやってます? あっちの部屋とか、片付いてます?」
リビングの隣のドアを指差し、見てやろうと立ち上がる。
木南先生はきっと、夏休みの宿題は最終日までやらないタイプの人間で、どうせ退去日ギリギリまで何もせずに、どこの部屋も片付けてなどいないのだろう。
「そこ、蓮の部屋」
しかし、木南先生の一言で動きを止めた。
オレが開けようとしていた扉は、他人が気軽に踏み込んではいけない、木南先生の大事な大事な場所だった。
『やってしまった』と気まずくなりながらソファーに腰を埋め、紅茶のカップに手を伸ばすと、紅茶を飲むフリをしながらカップでバツが悪くなってしまった顔を隠した。



