「あ、お構いなく。 あ!! すみません!! 手ぶらで来てしまいました」
紅茶を用意しながら、冷蔵庫からチョコを取り出す木南先生を見て、手土産を買い忘れている事に気付く。
気持ちばかりが焦ってうっかりしていた。
「私、上司の家に何も持たずに行った事なんて、今まで1度もないわ」
紅茶とチョコが乗ったトレーを呆れながらリビングに運ぶ木南先生。
「お願いをする立場だというのに…」
どこにも寄らず、何も買わずに木南先生の家にやって来たのだから何も入っているわけないのに、何かないかと鞄の中を探ってみる。
「今日のところはこれで…」
鞄を弄り見つけたのは、半年前に風邪を引いた時に購入して余っていたのど飴2つだった。しかも、若干溶けている。
「それは何も差し出さないより失礼だわ」
木南先生がしょっぱい顔をしながら、有名店の高級チョコをサラっとテーブルに置き、格の違いを見せつける。
「…ですよね」
即座に適当にのど飴を鞄の中に放り込んだ。こののど飴の存在は鞄を買い替えるまでもう思い出す事はないと思う。



