「…何ソレ」
握りしめた受話器を荒々しく電話機に戻す。
木南先生に腹がっ立った。木南先生は命を見捨てる人じゃないと思っていたのに。オレ、木南先生の事、めちゃめちゃ尊敬していたのに。
木南先生の行動が、信じられなかった。と言うより、信じたくなかった。こんなの木南先生じゃない。木南先生らしくない。
壁に掛けられている時計を見上げると、時刻は18:30。就業時刻は過ぎていた。
「春日先生、すみませんが今日はもうあがらせてください」
いつもはオペの練習をしたりで何だかんだ2、3時間は平気で残業しているのだが、今日はどうしても行きたいところがある。
「うん。早く帰りなー。働きすぎは身体に良くないからね。お疲れ様」
春日先生は、野村さんの事で躍起になるオレが若干うっとうしいのか、『どうぞどうぞお帰り下さい』とばかりに手を振った。



