しかし木南先生はもういない。

 春日先生はこの病院でも手術を行う事は難しい旨を野村さんに説明したが、それでも野村さんは『少しでも長く生きたい。書きたいものがまだある』と、脳外に関しては最新鋭の設備と技術が整っているこの病院に入院する事を希望した。

 オレは、そんな野村さんの担当医に指名された。

 治療を望む患者さんに緩和ケアしか出来ない。

 『不甲斐ない』

 山本蓮くんが亡くなった日、木南先生が零した言葉が頭を過った。

 オレは、藁をも掴む思いでやって来た野村さんが死に行く姿をただ見ているだけなのか?

 これで良いのだろうか? 

 野村さんの希望に沿いたい。不可能ではないオペを、諦めるなんて事はどうしても出来なかった。

 無力な自分が野村さんの為に出来る事は、1つしかなかった。