木南先生がいなくなって数日後、名の知れた人物が紹介状を片手に脳外を訪ねて来た。
「こちらに木南先生という有名な医師がいると伺って参りました。木南先生なら、私の病気は治せますでしょうか」
切羽詰まった様子で春日先生に紹介状を渡すその人は、有名作家である野村和幸だった。
紹介状に目を通す春日先生の表情が固まった。
春日先生の様子が気になり、春日先生の手に持たれた紙を横目で盗み見る。
そこに書かれていた病名は『グリオブラストーマ』。浸潤が早く、以前入院していた病院での摘出は困難との事。
グリオブラストーマは、放射線療法や化学療法も本脳腫瘍にはほとんど効果が無いと言われている。放射線療法・化学療法を施すには絶対的にオペが必要。
しかも、全摘するのはかなり難しい上、平均生存期間は約1年と極めて予後不良であるこの病気。
敢えて手術をしない選択する患者さんも多いが、野村さんはそれでもオペを希望している。
深刻な状況になっているグリオブラストーマのオペが出来るとしたら、木南先生しかいなかった。