脳外ローテも残りあと1ヶ月を切った頃、突然木南先生が病院を辞めると言い出した。

 何でも、父親が倒れてしまい、母親一人での看病が難しい為実家に帰るとか。

 家庭の事情だから仕方がない。分かってはいるけれど、木南先生と働く事が叶わなくなってしまった事が残念でならない。

 この病院の脳外のエースで出世街道まっしぐらだった木南先生は、周りから『もったいない』と言われながらも、何の未練も無さ気に医局にある自分の荷物を纏めると、オレに『最後までオーベン出来なくてごめーん』と悪びれさえも無く明るく謝って、病院を去って行った。

 オレの残り少ない脳外ローテのオーベンは、当初の予定通り春日先生がやってくれるらしい。

 春日先生は優しくて良い先生。

 だけど、もっと木南先生から色々教わりたかった。

 オレは研修後、木南先生のいない脳外に戻って来る事に意味などあるのだろうかと、希望医局をも迷ってしまうくらいに、木南先生の存在は大きかった。