「ドレス、ありがとうございました。それで、当日は具体的になにをすればいいんですか?」

店をあとにしながらそう尋ねると、剣持部長はとくに表情を変えることもなく言った。

「別になにも。俺の隣でにこにこしていればいい」

「わかりました。あの、今度の謝恩会って実家の会社を含めて招待されたってことは……剣持部長のお父様もいらっしゃるってことですよね?」

メガ企業のトップに立つその人こそが剣持部長の父であり、自分の義父……。そう思うとどんな顔をして会えばいいのかと考えてしまう。

「あぁ、親父は出席する予定だったが……急遽、予定が入って来られなくなった」

「え?」

結婚していなかったとしても、剣持部長の部下として挨拶くらいはしなくては。と思っていたが、お父様が来ないと聞いてなぜかホッとしてしまった。

「結婚したから挨拶とか思ったのか? 別にそんなことしなくていい。俺の結婚に親は関係ない」

「はい」

剣持部長ってもしかして、お父様と仲が悪いのかな?

彼のつんけんした口調から冷たいものを感じ、私はそれ以上お父様のことを尋ねることができなかった。

剣持部長の妻だからといってとくに身構える必要もなさそうだ。美味しいものいっぱい食べて、なに聞かれたらこの間みたいに、知らぬ存ぜぬを通せばいいんだ。と、私はそんなふうに気楽に考えていた。