あの取り巻きの女性たちを思い浮かべ乙女が言う。
「なるほど」と綾鷹がニヤリと笑う。

「もしかしたら、それは嫉妬というものかな?」

訳が分からない、というように乙女はフルフルと頭を振り言う。

「もしかしたら、それは自惚れというものですか?」

二人のやり取りを聞きながら、もしかしたら、これはじゃれ合いというものだろうか、とミミは一人ほくそ笑む。



ミミの見送りを受け、綾鷹と乙女は國光の運転で、一路、上ノ条邸へ向かう。

「上ノ条公爵にお目に掛かるの、私、お初だと思います」
「ああ、彼は長く異国の地にいたからね」

「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。

「きみは異国の地と聞くとやたら興奮するね」
「興奮って……失礼な! 当然です。いつか私も行きたい思っているのですから」
「なら、私が連れて行こう。だから、他の者に興味を持つな」

乙女が上ノ条公爵に話を聞こうとしていることなど綾鷹にはお見通しだった。
先手を取られた乙女は頬を膨らませ、フンとそっぽを向く。

「ほらほら、むくれない。綺麗な顔が台無しだよ。機嫌を直して」

そう言いながら綾鷹が乙女の目前に銀色に輝く小箱を差し出す。