ギクリとしながら、それを誤魔化すように乙女が言う。

「ところで、髪飾りはどれがいいの? もう時間がないのでは?」
「あら、大変! 薔薇をモチーフにしたその赤い方に致しましょう」

誤魔化せた、と乙女が胸を撫で下ろしていると、トントンとノックの音がする。「はい」と返事をすると「用意はできたかい」と綾鷹が現れる。

「あっ、申し訳ございません。髪飾りを取り替えたら完了です」
「慌てなくていい。まだ時間はある」

「それにしても、綾鷹様、いつにも増して素敵です!」とミミが瞳を輝かせる。

確かに、と乙女も心の中で相槌を打つ。いつもの親衛隊スタイルも嫌味なほど似合っているが、今日のような黒のタキシード姿はまた格別だった。

「ありがとう。個人的なパーティーだからね。私のことより乙女、いつも以上に綺麗だ。庭の薔薇も霞んでしまいそうだ」

鏡越しに綾鷹が乙女に話し掛ける。

「――砂糖を吐きそうなほど甘い台詞ですね」
「おや? 女人はそんな言葉が好きなのでは?」
「お気の毒様、私はそんな言葉で喜ぶような女ではありません」