恋し、挑みし、闘へ乙女

車外に引っ張られた乙女は、うわっとバランスを崩して綾鷹の胸に倒れ込む。

「あっ、すみません」と慌てて身を引く乙女の背を、綾鷹がグイッと引き戻しそのまま抱き締める。

「ちょっちょっと!」
「乙女、よく聞け」

抵抗する乙女を綾鷹はさらに強く抱き締める。

「君は私の妻になる身。だから絶対にここからいなくなるな。さっきも言ったように、君は狙われている。小金澤の話が伝われば、敵は何としても君を亡き者にしようとするだろう」

綾鷹の言葉に乙女の力がスーッと抜ける。

「私はずっと陛下を守ってきた。それは国家のため、仕事のためだ。だが、君に対する思いは違う。理性では抑えられない気持ちが心の底から湧き上がり、君を守れと命令するのだ」

ドクドクと彼の心臓の音が乙女の耳に届く。

「だから、勝手に私の前から消えるな。分かったな!」

命令口調だが、乙女には綾鷹が懇願しているように聞こえた。

「――それは、ここから出たら、私は死ぬということですか?」
「おそらくな」
「貴方は……私を失うのが怖いのですか?」
「ああ」

たった一言だったが、素直な言葉が乙女の頑な心にゆっくり染みていく……が、やはり見合い結婚に抵抗のある乙女は素直になれない。だからかもしれない。宣戦布告するような言葉が乙女の口から飛び出る。

「じゃあ、しっかり守って下さい! 私もこの世にはまだまだ未練がありますので」

綾鷹はそんな乙女の気持ちを見透かしているのか、乙女を見下ろしながらニヤリと笑い言う。

「君の挑戦を甘んじて受けよう。約束する。どんなことがあろうとも君のことを守る」
「分かりました。お手並み拝見致します」

二人の熱視線が絡み、火花を散らす。そこに……。