「ブスッとしていると、本物の醜女になるぞ」

月華の君を王宮に送り届け、今、車の後部席には乙女と綾鷹の二人だけだ。

この男は二重人格だろうか……?
先程までと百八十度変わった綾鷹の態度に乙女は眉を顰める。

王宮に入れて浮かれた途端『車で待機! 待て!』って、私は貴方の部下? 犬じゃないんだから“待て”はないでしょう! おまけに一時間も戻ってこないなんて……。

次から次へと出てくる文句に、乙女の腹立たしさは益々ヒートアップしていく。

「ああ、そうだったな。昼食がまだだったな。腹が減ると人間怒りっぽくなる」
「違います!」

見当外れの推論を一刀両断する乙女に綾鷹がクスッと笑を漏らす。
その穏やかな微笑みに乙女は戸惑う。

「何なんですか、その意味深な笑顔は!」
「いや、見合いの相手が君で良かったと思ってね」
「私は全然良くありません! 見合い結婚なんて望んでいません!」
「ふーん、小説のような恋愛をしたかった、ということかな?」

「あっ!」と乙女は思い出す。

「それ! どうして小説のことをご存知だったのですか?」
「当然だろ?」

綾鷹が、何を言っているのだ、みたいな顔で乙女を見る。

「陛下……いや、私の見合い相手だ。隅から隅まで調べるのは当然のことだろう?」

――でも、と乙女は思う。