「全く! いくら彼女が心配だからといって、先に行くんじゃないよ!」

また別の声が乙女の耳に届く。

「乙女ちゃん、久し振りだね」

誰? 顔を上げると乙女は声のする方に視線を向け、驚きと共に「月華の君!」と叫ぶ。

「おやおや、君まで来ちゃったのか」

鏡卿が苦笑いを浮かべる。

「全く! 生きているのならどうして知らせてくれなかったのです。隠遁生活なんかしちゃって!」

月華の君が鏡卿に食ってかかる。
乙女にはこの展開がどうにも理解できなかった。

「これはいったいどういうことですか!」

イライラと乙女が訊ねる。

「くっそー、痛かった!」

また思いがけない人物がドアの向こうから現われる。龍弥だ。彼が首を擦りながら入ってくる。

「おーっ、お嬢、大丈夫だったか?」
「大丈夫だったかは、貴方の方でしょう!」

キャンキャンと吠える子犬のような乙女に龍弥が笑いを噛み殺す。
綾鷹の腕の中からだから、全く迫力がない。

「国家親衛隊が全員逮捕したんだよ」
「えっ?」

乙女の視線が龍弥から綾鷹に移る。

「そういうこと」
「俺は協力者としてお咎めなしだってさ、梅大路綾鷹、ありがとうよ」