乙女は蘭子をギロリと睨み付ける。

「別荘? どのようなマジックを使われたのですか?」
「どういう意味!」

蘭子の顔が鬼の形相になる。

「美しい顔が台無しですよ」

開き直った乙女は怖いもの知らずだ。何よりも怖い存在となる。

「あのですね、知っているんですよ。黒棘先の面々が不正を働いていること」
「そんなことあるわけないじゃない!」

蘭子のキツイ声が反論する。

「遡ること三十年分の収支を密かに調べたそうですよ。国家親衛隊サイバー犯罪課が。勿論、黒棘先家のです。で、バランスが取れていないことが分かったんですって」

ギョッと蘭子は視線を泳がしながらも「そんなの嘘よ!」とわめく。
確かに乙女の言葉は嘘だった。だが、乙女は蘭子の反応で分かった。それが真実だと。

「悪いことは出来ませんね。全ての罪状が明らかになるのももうすぐみたいです」

ワナワナと唇を震わせ聞いていた蘭子がインターフォンを押す。そして、「行き先をあちらのお屋敷に」と震える声で告げる。

運転手にはその言葉だけでどの屋敷か分かったようだ。広い道に出ると綺麗にUターンする。

「あら? 今度はどちらに?」
「お黙り! 貴女は人質なのよ」
「いつの間にそんなものになったのですか? 話をしたかっただけなのでは?」
「煩い! 黙れ!」

淑女にあるまじき言葉遣いだが、乙女は口では負けない。

「もしかしたら、例の“化け物屋敷”に、また連れ込むつもりかしら?」

ヤマ感だった。だが、当たったようだ。蘭子が気味悪そうに「どうして?」と呟く。