そう問いたいのは私の方だった。

『知っているのよ。貴女が禁書を書いていることぐらい』

『あっ』と目を見開くと、蘭子は『勝った』というような顔で『ここで大声で言ってもいいのよ?』と真っ赤な紅の引かれた唇の端を上げた。

『そうなると、貴女はたくさんの人に迷惑をかけることになるわね』

その通りだった。恥ずべき行為をしているつもりはないが、禁書と言われる物を書く以上、やはり世間から見れば犯罪者だ。

『自分の立場がやっと分かったみたいね』

勝ち誇った笑みを浮かべると、蘭子はバッグから携帯電話を取り出して電話をかけた。相手は運転手のようだった。

蘭子と共に裏口に向かうと、案の定だった。そこに黒塗りの車が停まっていた。

――そして……今に至るという訳だ。

「どこに行くつもり?」

車窓を流れる景色がドンドン辺鄙(へんぴ)になっていく。

「別荘よ」
「誰の?」

蘭子の尖った視線が隣に座る乙女に向く。

「貴女、私のことを馬鹿にしているの? 黒棘先の別荘に決まっているじゃない!」

今では黒棘先も公爵家の一つだが元は貧乏男爵家。それを思い出すと乙女はフッと皮肉な笑みを浮かべる。

「何が可笑しいのよ!」
「ええ、可笑しいです。考えれば考えるほど変ですね」