チカチカと乙女の頭の中で危険信号が点滅する。

考えなしだった。今さら反省しても遅いがと思いながら、乙女はこの成り行きをどう切り抜けようかと思案する。

「黙(たんま)り? 陰気な子ね。お相手をさせられる綾鷹様が本当にお気の毒だわ」

おまけに罵詈雑言の数々を浴びせられ……それが当たらずとも遠からずで……乙女の心はちょっと凹んでいた。

黒棘先蘭子と出会ったのは、彼女が言うように本当に偶然だったようだ。彼女自身相当驚いていたからだ。あれが演技だったら、毎年、北之国で開催される有名な演技の祭典のノミネート、否、演技大賞ものだ。

あのとき乙女を見咎めた蘭子は、驚きながらも空席となった向かいの席に『座ってもいいかしら?』とも訊ねず腰を下ろした。

『ちょうどよかったわ。貴女に話があったの』
『私にはありませんが』

蘭子を威嚇するように背筋をスッと伸ばした。

『別に貴女の都合など聞いていないわ』

地球は自分中心に回っていると思っている自己中心的な女だと蘭子を凝視した。こういうときは視線を外した方が負けると知っていたからだ。

『ここでは話せないわ。ついてきて』
『どちらへ? 行きたくありません』

キッパリ断ると、蘭子は忌々しそうに顔を歪めフンと鼻を鳴らした。

『そんなぞんざいな口を私に利いていいと思っているの?』
『意味が分かりません』
『まぁ! 何様?』