いつものことだが、吹雪との打ち合わせで原案が大幅に変わることはない。しかし、斬新なアイディアの提示は毎回ある。それをどうまとめるかが書籍の出来不出来を左右すると乙女は思っていた。

そして、その作業が絡まり合うほど乙女の闘志は燃え上がるのだった。

ムフフと自然に上がる口角をそのままに、乙女は“ネタ帳”と呼んでいるA四判のノートを取り出すとブツブツ言いながら文字を書き込んでいく。

「あら、偶然ね。ごきげんよう、桜小路乙女様」

そこに、乙女を呼ぶ声が聞こえた。
最初乙女は幻聴かと思った。だから無視した。

「貴女、桜小路乙女でしょう? まさか、既に梅大路乙女なんて言わないわよね!」

再び声が聞こえたが、今度はかなり険を含んだ声だった。
その時、ようやく乙女は、誰だろう、と斜め左後方に目を向けた。

そこにスタイルも顔立ちも肉感的な美人が立っていた。
どこかで見た顔だなぁ、と乙女は思いながら問う。

「どちら様でしょう?」
「まさか、私を覚えていないの!」

「信じられない!」と怒りを含んだ眼が乙女を睨み付ける。

「貴女、馬鹿? 一度お会いしたことあるじゃない! 黒棘先蘭子よ」

名前を言われて乙女は初めてあのパーティーを思い出す。