「――あれ? ちょっと待って下さい」

だが、ようやく肝心なことに気付いたようだ。

「このミニ冷蔵庫が発売されたのは今年になってですよ」
「そういうこと」

綾鷹がニッと笑う。

「誰が隠し部屋にそれを運び込んだか……言わずと知れているよね?」
「――鏡卿……?」

「そう」と綾鷹が頷く。

「大人が一人で運べないものでもないだろうが、協力者がいたとしたら、『御前』と呼ばれる手の内の者だろう」

黒棘先?

「ということは、鏡卿がここに潜伏していたとしてですよ、今はどこにいるのですか?」

「捜査が入る前、君が助け出された時には既にここにはいなかっただろう」

「その証拠に」と言いながら冷蔵庫を開ける。中は空っぽだった。

「おそらく捜査が入ることを事前に予測していたのだろうね」
「本当に鏡卿って天才なんですね」
「嗚呼、怖い人だ」

「だから」といきなり綾鷹が両手で乙女の両肩を掴む。

「絶対に無茶なことをしないで欲しい!」

真摯な瞳が『心配だ』と言っている。

「鏡卿の思惑が分からない今、私たちに打つ手がない。ただ、一度拐かされた君を放っておくはずがないと携わる者たち全員が感じている」

だからボディーガードが……と乙女は納得する。