「家出してきたのだろ? 事前にこういう危ないことがある、と考えなかった君が悪いのでは? だからちょっと怖い目に遭ってもらった」

じゃあ何、だからワザと見ていたっていうの? なんて奴! 国家親衛隊のくせにと乙女は怒り心頭となる。

「とにかく、家人はまだ起床していないだろう。送るからおとなしく帰りなさい」

綾鷹は乙女の手から荷物を奪うと彼女の手を握り歩き出した。

「ちょちょっと放して下さい!」

この時まで、乙女がリアルに手を繋いだ異性は身内だけだった。真っ赤に上気する頬を押さえながら「放して!」と手を振り抵抗するが……。

「嫌だね。逃げる気だろう」
「逃げないので!」

フンと乙女の言葉を無視して、綾鷹はそのまま足を前へと進める。

ジタバタしたところで華奢な乙女が逞しい綾鷹に勝てるはずなどない。結局、乙女は自宅に連れ戻されてしまった。

「これに懲りて、家出なんて馬鹿なことは考えないことだ」

綾鷹はそう言いながら、「この穴から出てきたのか」と笑みを漏らす。

「――ありがとうございました」

一応、助けて貰ったお礼だけは言わねばと乙女は頭を下げる。しかし、「おまけに、すっごく親切なお節介を頂き恐悦至極です」と嫌味をプラスアルファすることも忘れなかった。