恋し、挑みし、闘へ乙女

「流石だね。そんなところだろうね」

二人はひとまずダイニングに向かう。

「ここがダイニング?」

乙女が目を疑うのも無理ない。

「どう見ても、ここはキッチンですよ」

こぢんまりとした部屋にコンパクトに収められたキッチン台と食器棚、そして、木製の粗末なダイニングテーブル。

「ここは使用人のキッチン兼ダイニングだろう。ほらここに」

綾鷹が見取り図の一点を指す。

「メインダイニング?」

ここよりずっと広い間取りだ。
嗚呼、と乙女が手を打つ。

「なるほど、猜疑の男……丸聞こえですね。ここなら使用人たちの話が」

暖炉に目を向けながら乙女が言う。

「想像だが、使用人たちに盗み聞きを知られないように控えの間を作り、彼らを決して部屋に入れなかったのだろう」

なるほど、と乙女が頷く。

「鏡卿は猜疑の塊……人間嫌い? だったようですね」
「まぁ、生い立ちを考えたら、当然といえば当然だろう」

そう言えば、と乙女も鏡卿についての噂話思い出す。

「確かに、人を疑って然りですね。じゃあ、あの広い部屋を自分でお掃除していたのかしら、意外にマメ男なのかしら?」

ブツブツ呟く乙女に綾鷹がクッと口角を上げる。