「どこが大袈裟だというのだね? 現に君は拐かしに遭ったのだよ」

いつも毅然としている綾鷹の声が怒りに震えている。

誰に対して怒っているのかは定かでないが……熱くたぎる怒りがビンビン伝わってきて、乙女はこの時初めて綾鷹のことを“怖い”と思った。

「とにかく、これは決定事項だ。紅子もその旨を桜小路家に伝えているはずだ」

乙女はハッと綾鷹を見上げる。
もしや、これは私のためでもあるが、ひとえに母たちを安心させるため……?

「明日その二人に会わせる」
「――二人も!」

私ごときのために……と途端に乙女は申し訳なくなる。

「ちなみに二人とも女性だから」
「えっ! 女性って……」

乙女の妄想が炸裂する。

「今流行のガールクラッシュな女ということですよね?」
「ガール……何だそれは?」
「同性である女性が惚れてしまうような女性を言います!」

ドヤ顔でせつめいする乙女に綾鷹は眉間に皺を寄せ、その腰をさらにキュッと抱き寄せた。

「まさか君もそんな女性が好きなのか?」
「当然です。カッコイイ女性は好きです。私も類に漏れずです」
「何ということだ! 私のライバルはよりにも寄って女性だったとは」

真っ青な顔でトンチンカンなことを言い出す綾鷹に乙女は笑い出す。

「綾鷹様、誤解しないで下さい。恋愛対象はあくまで男性です」
「本当に?」

乙女の返事に綾鷹はホッと安堵の息を吐き、怒ったように言う。