恋し、挑みし、闘へ乙女

乙女がギリギリと奥歯を噛む。

「――そんなことをされたら……私、一生お嫁にいけないではありませんか!」
「そこは心配ない!」

綾鷹が自信満々に言う。

「私が貰うと決めているのだから」

思わず『よろしくお願いします』と言いそうになり、「違う!」と否定する。

「いったい誰のせいだと思っているのですか!」

乙女の怒りに綾鷹が「心外だな」と応える。

「そもそも、君が“青い炎”で違法な恋愛小説など書かなかったら、こんなことに巻き込まれなかった。違うかな?」

ん? 顎に人差し指を置き、宙を見上げながら「確かに」と納得し、自業自得ということだろうか、とちょっぴり反省をする。

「でも、まぁ、もう大丈夫だろう」
「何がですか?」

綾鷹がニヤリと笑う。

「さっきの彼女、相当お喋りだと思うよ」

ああ、と乙女が手を打つ。

「噂は千里を駆けるですね! 一気に誤解が解けますね。でも……」

アレも相当悪い噂……になるんじゃないかな、と乙女は思うが、綾鷹は『そんなの気にしない』みたいにニッと悪い笑みを浮かべ言う。

「そういうこと。噂を上書きするには、より鮮烈な真実。これが効果的だ」
「真実って……だから、あの嘘八百……」

この男、本当に策士だ。乙女は感心すると共に、作家の素質がありありだ、と妙なライバル心を持つ。

「君、また良からぬことを考えているだろう?」

乙女の気持ちを見透かしたように綾鷹が言う。