「とにかく、今日は乙女と二人で出掛ける。馬に蹴られたくない、よね? 國光は!」

最後の『は!』に綾鷹が力を入れると、國光は仕方なく「かしこまりました」と頷くしかなかった。

その答えに満足したように、綾鷹は「ありがとう」と言い綺麗なウインクをする。

「おや、用意ができたようだね。出掛けられそうかな?」

白地に青い小花を散らしたロング丈のフレアースカート姿の乙女に、綾鷹の目尻が下がる。

乙女が「はい」と返事をすると「じゃあ出発しよう」とその腰に手を回しエスコートする。

二人の背に向かって國光が「行ってらっしゃいませ」と声を掛けるが、その声はちょっと不満そうだ。

「國光はああ見えて、ハードボイルド系のサスペンス小説が好きでね。現場検証と聞いて血が騒いだんだろうね。一緒に行きたくてたまらなかったみたいだ」

綾鷹がクスクス笑いながら乙女にコッソリ耳打ちをする。

「あの國光さんが……」

何とまぁ、と肩越しに振り向き、ションボリと項垂れる國光の姿に頬を緩める。

「ところで珍しく紅子さんのお見送りがありませんが」

ミミは休養日で昨日から実家に戻っていた。

「紅子は君のお宅に行ったよ」

玄関前に停車する助手席のドアを開けながら綾鷹が言う。

「何ですって!」

乗り込もうとしていた乙女の足が止まる。