「現場検証?」

乙女はハチミツ入りミルクティーを飲むのを止め、帰宅したばかりの綾鷹に目をやる。

あの事件から既に三日。国家親衛隊が総力を挙げて捜査をしているが、未だ蘭丸は見つかっていない。

「そう、曖昧なところを思い出してもらうために、君の記憶を元に足跡を辿ってみようと思う。怖いかい?」

そういう感情はない。むしろ……乙女の瞳が好奇心いっぱいに輝き始める。

「協力は惜しみませんわ。国家親衛隊に協力することは市民の義務ですもの!」

身を乗り出して嬉々と言う乙女に綾鷹は少しだけ後悔する。

「君のそのやる気が私は逆に怖い」

どうしてでしょうという顔をする乙女に、「それでも事件解決のためだ仕方がない」と綾鷹は独り言ち、説明を始めた。

「今回の現場検証は公ではない。表向きはデートだ」
「デート?」
「そう、私たちのね」

そう言えば個人的に二人で過ごしたのは……と乙女は思い返す。そして、見合いの日の神田一番食堂、あれだけだ、と思う。

「私たちはまともにデートをしたことがない。だろ?」
「でも、今回のは現場検証なんですよね?」

「不服か?」と綾鷹がニヤリと笑う。

「とにかく明日は私たちの初デートだ。大いに楽しもう!」

だが、乙女は冷静だった。
「現場検証をデートと偽るのは……」と龍弥のことを思う。