恋し、挑みし、闘へ乙女

「そりゃあ、そうだろうな。あいつ、怒るとメチャクチャ怖いんだぞ、知ってるよな」

綾鷹の真の怖さを知っている龍弥は悪寒を感じブルッと震える。

「もう! 脅かさないでよ。だからね……」
「だから何だ?」
「だから丸く収めるために『お友達のところにお泊まりにいった』と言っておけば……」

乙女の突拍子もない言葉に龍弥は呆れる。

「俺、今、ちょっとだけ梅大路綾鷹に同情した。お前、無茶苦茶だな。この状況で丸く収まると思ってんの?」

「だから、拉致とか誘拐とかじゃなくて、ちょっと外出しましたにしたら……」

しどろもどろに言う乙女に龍弥が言う。

「当然、お前が物凄く叱られるだろうな。ほら、何をしても丸くなんて収まらない。だから、もう寝ろ! 起きているとろくなこと考えないみたいだからな」

まぁ、確かにそうだな、と乙女も思い直すと、「分かった。いろいろありがとう」と言って目を閉じる。

「ありがとうね……全く、そういうところが可愛いって言うんだよ」

龍弥は独り言ち、部屋を後にする。

バタンとドアが閉まる音を聞き、乙女は薄く目を開ける。そして、誰もいないのを確認すると全開にする。

「私って女優にもなれるわね」

まだ頭が痛いが、フラフラするほどではない。

「どうにかしてここから逃げ出せないかしら……」