恋し、挑みし、闘へ乙女

寝ろと言ったり、寝転がるなと言ったり、「だったら座りながら寝ろというの!」

怒り出す乙女に、「本当、お前って可愛いな」と言いながら乙女の頭をポンポンと軽く叩き、「俺は隣の部屋にいる」と立ち上がった。

「で、その蘭丸はもうここには来ないの?」
「いや、仕事を済ませたら来るだろう」
「仕事って?」
「俺もそこまでは知らない。ただ、今回の拐かしに関係することだろうよ」

“拐かし”という言葉で、自分は本当に拉致られたのだと乙女は実感する。

「――ねぇ、私の携帯電話知らない?」

さっきからキョロキョロと見回しているが、持っていたバッグも見当たらない。

「蘭丸が持って行ったんじゃないのか」
「貴方、電話貸して下さらない?」
「お前、馬鹿か! 貸すわけないだろ」

やっぱり。

「案外親切だから頼めば貸してくれると思って、ちょっと言ってみました」
「そんなことをしたら俺が捕まるだろ。そこまでお人好しじゃない」

龍弥が憮然と言う。

「――だって、綾鷹様がね、遠出される前に『くれぐれもおとなしくしていること』と言って、執事とか女中頭に私のお守りを頼んで言ったの」

「お前、全然信用ないんだな」

「分かるような気がする」と龍弥が何度も頷く。
その様子にムッとしながら乙女がヤケクソのように言う。

「もし、私が拐かされたと知ったら……彼、凄く怒るわ」