恋し、挑みし、闘へ乙女

そう言えば糸子は男爵家の出身だと言っていた、と乙女は思い出す。

「とてもおとなしい感じの方だったわ。昔から?」
「パーティーでお会いしただけですから詳しくは知らないのですが、そうだったと思います」

ミミは再び画面に視線を落とし、「そう言えば」と何か思い出したように顔を曇らせる。

「実は彼女には結婚前、『好きな方がいらっしゃる』と噂が立ったことがあるのです。だからなのか、結婚当初から旦那様と上手くいっていないようで……」

彼女のあの儚げな感じは、そういう裏事情が滲み出たもの?

「ミミ、事実は小説よりも楽しいわね」

それを言うなら『事実は小説よりも奇なり』じゃないのか、とミミは眉を寄せる。

「乙女様、綾鷹様とのお約束お忘れではないでしょうね!」

釘を刺すミミに乙女は「当然です」と目を逸らし訊く。

「糸子様の旦那様って糸川公爵よね」
「ええ。十八歳の花嫁と四十二歳の花婿。年の差カップルとひと頃パーティーでも評判でした」

そんなに離れていたのか。乙女は糸子をちょっと気の毒に思う。

「これも噂ですが、結婚生活が上手くいっていない理由にはもう一つあって……糸川公爵に愛人がいたそうです。それも何人も」

「まぁ!」と乙女の大きな目がさらに大きくなる。